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介護問題の現状と改革案

出典: 東京ぺディア

  • 作成: 公共政策プラットフォーム プラトン
  • 作成日:2007年7月

目次

ポイント

  1. 施設介護から在宅介護推進に制度を変えたが、1~3人世帯での在宅介護は不可能に近い。
  2. コムスンは氷山の一角。政策の大転換をしない限り、高齢者を食い物にする悪徳業者はなくならない。
  3. 介護ヘルパーの驚くべき低賃金。ヘルパーは死ぬほど働いても、自分の家族も養えない。


 日本では65歳以上の人口が7年後の2014年には4人に1人となり、2033年には総人口の30%を超え、3人に1人となる。
 では、その高齢者は大切にされているだろうか。必要な介護が受けられているのか。「日本に生まれて良かった」と思いながら、人生をまっとうしているのだろうか。

介護は受ける人にとっても、世話する人にとっても、精神的・肉体的に過酷である。

 いま、50代の7割が、老後の生活設計に大きな不安を抱いている(内閣府「国民生活に関する世論調査」、2006年10~11月実施)。

 介護問題に限った最近の意識調査はないが、1993年の総理府「高齢者の生活イメージに関する世論調査」の時点で、高齢者の2人に1人が「自分や配偶者が寝たきりや痴呆で介護が必要となる」ことに、恐れおののいている。
 同時期、実際に介護者となった家族の3人に1人が、被介護者に憎しみを感じたことがあり、介護者の2人に1人が被介護者を虐待した経験を持っている(日本労働組合総連合会「要介護者を抱える家族についての実態調査」、1993年)。

 介護に直面した方々のこうした精神的、肉体的、経済的な苦労は、いまも和らぐことなく、むしろ増大していることだろう。
例え、自分は家族に迷惑をかけたくないと思っても、入所者負担費用の軽い特養(特別養護老人ホーム)や老健(介護老人保健施設)は、何十人、何百人もの人々が順番を待っている。要介護度4~5の高齢者や障害者が対象の特養の場合、既入所者が1人亡くなると1人入れるという状態にあり、入所の順番は2~3年待ちだ。

1~3人世帯では誰が在宅介護をするのか

 福岡県の柳川市では、1~3人暮らしの世帯が過半数を超えている。1人暮らしの多くは未亡人=独居老人、または20~30代の独身男女。2人暮らしは夫婦だけか、親1人・子1人の母子家庭。3人暮らしは夫婦と子ども1人、または初老夫婦とその老親である(平成16年)。

 「1951年(昭和26年)生まれの人のほとんどが共働きで、母親の面倒を見ています。老人の認知症率は25%といわれていたが、現実は50%に迫っている。要介護となったときに施設に入所できればまだいいが、それまでが大変。在宅介護をするとなれば、夫婦のどちらかが退職しなければならないのが現実」(同市福祉関係者)

表:在宅・施設サービス利用者数の推移
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出所:厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査結果」(各年版)

 新潟地震の復興に際して、山古志村の独居老人の生活支援問題がクローズアップされたが、東京・大阪などの大都会では独居老人はもちろんのこと、老夫婦だけの家庭、結婚しない1人暮らしの男女、結婚しても子どもを産めないワーキング・プアの夫婦、そして離婚による母子家庭の数も膨大になる。柳川市の問題が大都市では何十倍、何百倍の規模で進んでいる。

 敗戦で焼け野原になった日本を復興させた戦前生まれ世代が、高度経済背長を支えてきた団塊の世代が、介護問題で苦悩している。
 いま20代、30代の若い人たちにとっても、決して他人事ではない。20年後、遅くても30年後には、みんな同じ状況に直面する。

"予防介護の推進"で、本当に介護が必要な人まで介護サービスが受けられなくなった。

 「予防介護重視政策で介護療養型医療施設と病床が減ってしまい、母の行き所を失いました。脳梗塞で寝たきりになった69歳の母は、常時、痰の吸引が必要な病状。介護師の割合がさらに減る、一般介護施設では無理です。
 勤務している東京の病院を辞め、家賃の安い群馬県でパート看護師をしながら在宅介護をすることにしました。でも独身の私の老後はどうなるのか。お墓に入れてくれる人さえいない。先を考えると眠れない夜もある」(独身女性看護師、44歳)

表:介護サービス施設数の推移
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出所:厚生労働省「平成18年介護サービス施設・事業所調査結果速報」(平成19年5月)

破綻の原因は場当たり的で無策な行政に

 今から7年前(2000年)、政府与党は、「家族や周りに迷惑をかけずに人生の最終ラウンドを迎えられる」かのように謳い、65歳以上の高齢者(第1号被保険者)と40~64歳の医療保険加入者(第2号被保険者)を対象に介護保険料の徴収を始めた。それが今の介護保険制度だ。

 介護保険からの総費用は初年度が3.6兆円。それが2004年には6.2兆円に倍増。2006年には7.1兆円である(独立行政法人福祉医療機構)。
この膨大な費用は何に、どのように使われてきたのか。

 「中小の家政婦紹介所や、介護ビジネスで大儲けを狙う不動産業者をはじめとする異業種参入者に、ジャブジャブと補助金を出した。介護事業所を作るのに幾ら、ヘルパー1級を1人増やす毎に170万円、2級1人に30万円の(各創業時の1年間)補助金をだす。
 入所一時金が3千万円から1億円余の豪華有料老人ホームにも莫大な助成金が出て、4年前、ある東京近県の長者番付の1位と2位は、いくつもの有料老人ホームを経営する介護成金兄弟でした。33もの豪華老人ホームが林立した世田谷区では、空き部屋が増えています。
 莫大な入所一時金と毎月25万円以上の維持費を払える人は国民の1%以下でしょう。皆さんの周りにそんなお金持ちのお年寄りが何人いますか。普通の庶民とは無縁の施設です。
 自民党は、一握りの大金持ちのために、有り余るほどの豪華有料老人ホームを作ってくれた。コムスンのような、お年寄りと介護保険料を食い物にするハイエナ介護業者をはびこらせた」(東京の介護事業所理事長)

 補助金の垂れ流しと利用者の増加などが原因で、結果は深刻な財源不足。そこで2005年4月1日から、政府は介護保険制度を"施設介護から在宅介護へ"と転換した。
要は、膨張する介護給付費を抑制するのが目的である。改正の問題点を絞ると、以下の3つになる。

  1. 特養の削減をはじめとして、庶民の介護施設を減らす。
  2. さらに介護保険施設(ショートスティを含む)の居住費、食費の入所者負担を増やす(年金80万円超~266万円以下の入所者の負担増は毎月1.5万円。年金266万超では月に3.1万円、年間37万2千円の負担増)。
  3. 介護予防のために「要支援」を新設。要介護1~5への介護サービスは継続するが、要支援には身体状態の維持と悪化防止のための予防給付を出す。

介護制度改正で悪化した介護環境

 制度改正後、市町村などが行う介護認定は当然、厳しくなる。改正前に「要介護1」で月に約16万5千円の利用限度額だった人が介護認定で「要支援2」になると、約6万円、「要支援1」では11万5千円減額する。ヘルパーに受ける介護サービスの質や量もそれぞれ三分の二、三分の一に減る。

表:介護保険改正前後の認定区分の推移
ファイル:Pla_kaigo03.jpg
注:カッコ内は標準の支給限度額
出所:読売新聞2007年7月4日

 介護認定に対する不服審査請求が制度改正後に急増。改正前(2005年度)の2倍以上の560件になった。「認知症や介助なしに外出不可能な高齢者ら、明らかに予防段階を過ぎた人が要支援に認定された」(読売新聞7月4日)ケースもある。

 これは、市町村の福祉職員が国の政策に沿ってやみくもに介護給付費を削った結果の、ひとつの例にすぎない。
 そして、介護現場を担う登録ヘルパーにも、そのしわ寄せが押し寄せている。

制度改正前もヘルパーの年間離職率は20%、5年で人が入れ替わる。平均年収17万円。

 「生活援助で時給1,200円、身体介護は2,500円が登録ヘルパーの私の時給。社会保険から介護事業所に支給される額の約半分ですね。交通費は出ません。生活支援はコミュニケーションが大切なのに、改正後はサービス時間が切り詰められ、通院に付き添うのも駄目。身体介護サービスは30分単位、最大1時間30分。それ以上は利用者の自己負担ですから、大抵の人が受けません。自転車で死ぬほど走り回っても1日に1万円は無理。社員ヘルパーでも給料は経験1年で17~18万円。2年で20万円。家政婦さんのほうがよっぽど実収入は上でしょう。
 最近、福祉関係専門学校や大学を出た若い男の子の登録ヘルパーが来ます。独身の間はいいけど、結婚して家族を養うだけの収入は30、40歳になっても見込めない。生活保障が何もない、ワーキング・プアの底辺です。ヘルパー同士が結婚したら、子どもは絶対埋めません」(2級女性ヘルパー)

 常勤者の少ない現場で重い責任と精神的負担を負わされ、腰痛に耐えながら働くヘルパーたちに、"明るい未来"がまったく見えない。
 必然的に離職率が高く、専門性を備えた経験豊かなヘルパーは育たない。労働者の権利がまったく守られていない登録ヘルパーと主婦のパートヘルパーに「利用者の権利を守れ」と要求するのは過酷過ぎる。

高齢者の尊厳を守って、幸せな国に

 全国の大小の公園に、高齢者がゆっくり憩える背もたれ付きのベンチがどのくらいあるのか。東京・巣鴨の『地蔵通り』のように、高齢者が集まって羽を伸ばせる広場や遊歩道が全国で姿を消し、コンクリートと鉄とガラスのモダンな町並が増殖し続けている。世界最大の老齢社会なのに、行政は高齢者を無視してきた。高齢者が若い人たちに遠慮して、声を上げないのも原因のひとつだ。そうした風潮の日本において、介護の破綻が一番切実で最も重要な問題である。

 ではどうすればいいのか。

図:増加する要支援者
ファイル:Pla_kaigo041.jpg

注:介護予防地域密着型サービス、介護予防居宅サービスを重複して受給した者は、それぞれに計上している。
出所:厚生労働省「介護給付費実態調査月報」(平成19年4月審査分)

改革の柱①:道路や箱物を止め、介護関連予算を増やす

 経済格差や核家族制度の歪みなどの要因で、日本ほど1~3人世帯が多い国はない。しかも居住スペースが狭く、経済的にも苦しい世帯が多い。それなのに介護施設が減り、病床が減り、ヘルパー利用者の自己負担を現行の1割から2~3割に増やすという試案(厚生労働省「介護施設等のあり方に関する委員会」)まで浮上している。

 年金が月に10万円の人でも、月に4万円の自己負担でもなんとかやっていける。それが2割負担だと8万円の負担となり、介護を必要としながらサービスが受けられなくなる。一体誰に、どうやって介護してもらえと言うのだろう。財源不足を理由に、今以上に利用者負担を増やしてはいけない。

 道路や箱物に税金をつぎ込むのではなく、その財源を介護予算に廻して、庶民に手の届く老人ホーム、介護施設、地域の自立支援センターを増やすことに政策の優先順位を変更していかなければならない。 
 独身者や伴侶に先立たれた男女が集って助け合いながら暮らす「老いを待つ家」も、市部には必要だ。

コムスンでできたことを、なぜ市町村は自ら行おうとしないのか?

改革の柱②:過疎地の介護事業は地方自治体で

 コムスンの破綻によって、「介護の担い手がなくなってしまうのでは」という不安が利用者の間で生じている。北海道などの過疎地に限らず、相模原市などの東京近郊でもだ。そういう地域では高齢者が多く、ヘルパーのなり手がない。一軒一軒の距離が離れていて労働効率が悪い。そのため民間の介護事業所は開所しにくいからだ。
 しかし、コムスンは進出していた。
 例えば、「近隣都市部の高校新卒者を"2年我慢すれば、東京へ転勤させる"と口約束して北海道へ集め、2級ヘルパー資格を自社で取得させながら現場にも出す」(コムスン退職者)というような手法で。

 解決法のひとつは、困っている地域の市町村にある社会福祉協議会が、介護事業所の役割を担うことだ。民間は事務費や家賃が掛かり、利益を上げなければならないが、市町村はプラスマイナス・ゼロでいい。中小の民間事業所がヘルパーに支払う給与は保険料の70%前後だが、家賃不要、事務処理を職員が出来る市町村なら、90%支払える。東京と変らない時給となり、出稼ぎを止めて地域に根付く人もでるだろう。

 多くの市町村は「今の人員では無理」と言う。社会保険庁と同様に、「国民のために働く意識」が欠如しているのではないだろうか。まず、やってみる。やれば出来るし、住民の信頼も取り戻せる。

改革の柱③:ヘルパーの労働条件の改善

 政府は、これまでに民間の福祉関連各種学校や大手事業所が出してきた1、2、3級ヘルパーの資格を国家資格に切り替えようとしている。許認可行政は省庁の利権の"温床"。厚生労働省は必ず切り替えるだろう。

 しかし、簡単な通信教育に対して1人平均10万円も払って2級資格を取得した現在のヘルパーたちに、国家資格への切り替え講習などによって、これ以上搾取するようなことがあってはいけない。その監視をしながら、かつ、労働条件を改善し、介護の仕事に専任して一生懸命働けば、家族を養える収入が得られるように雇用制度に改める。

改革の柱④:介護事業者の監視強化と罰則の強化

 登録ヘルパーの給料の半分をピンハネしたうえに、設備と人員をごまかし、してもいない介護をしたことにし、量と質を水増し、介護保険に不正請求を重ねる。これはコムスンだけではない。後釜に名乗りを上げた事業者も、露呈しただけで2億円の不正請求をしている。

 本来、介護事業は利益を追求するだけのビジネスであってはいけない。日本全国民の人権と人生の尊厳を護る、もっとも根源的な仕事である。
 各自治体が全力を挙げて不正を監視し、不正があれば組織解体と実刑を含む厳罰で対処する。そして、私たち国民の一人一人が監視し、声を上げること。
 それは、ヘルパーの労働条件の向上にもつながり、介護の質と量が向上する。 

高齢者の幸せが、若者の希望の灯火に

 子どもと高齢者を大切にしない国に、明るい未来はない。
 一生懸命に汗水流して働いた自分の祖父母や両親が、幸せな老後を送り、尊厳を持って死を迎える姿を見ることで、青少年も自分の将来に希望を持つ。「真面目に働いても、どうせ報われない」と思えば、若者はせつな的になり、自暴自棄にもなる。
 高齢者が幸せに生きることで、若者たちが生活意欲を取り戻す。ニートも青少年犯罪も必ず減る。この日本は、必ず、住みやすく、明るい社会になる。

介護事業者からもひとこと

 「病状の維持と改善のための予防介護であるはずなのに、指導要綱に添って歩行の"予備運動"をやったら大腿骨骨折が続発。お年寄りの動きを知らない人が要領を作ったんですね。
 "利用者の自立促進のために、ヘルパーは過剰サービスをするな。通院付き添いは利用者の自己負担に"と言いますが、ろくに歩けない人を1人で行かせられない。こうしたことで抗議すると"文句がある事業所は、事業を廃止してもいいんです"と東京でも八王子でも言われた。
 介護保険制度はお年寄りとその家族を幸せにするという"契約"をもとに保険料を徴収し、税金を使っている。いまの厚生労働省は、その原点を忘れている」(小規模介護事業者)

民主党の政権政策Manifesto2009【年金・医療】

民主党の政権政策Manifesto2009【雇用・経済】

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