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厚生労働省社会保障審議会少子化対策特別部会第一次報告の意義

出典: 東京ぺディア

  • 作成: 沓掛俊哉(児童福祉分科会)
  • 作成日:2009年5月

目次

「第一次報告」の中身

 厚生労働省・社会保障審議会少子化対策特別部会は、特に待機児童問題に対処する第一次報告を取りまとめるにあたり、20年12月16日に報告案を公表し、パブリックコメントを公募したのち、21年2月24日に報告提示を行った。
 今後の保育制度の姿について、「現行制度維持」~「市場原理に基づく直接契約・バウチャー方式」まで3通りを提示した後、中間に位置する「新たな保育の仕組み(「サービス保障の強化等+財源確保」案)」におおよその委員の意見を集約した。
 骨子として、国・地域が策定する基準に基づき、市町村が地域で申請のあった利用者(子ども)それぞれにつき、保育の必要性・量、および優先的利用の必要性を判断し、認定証明書を交付する。(公的保育を受ける地位の付与)
 その後の順序はこう続く。当該認定量に基づき、各利用者の保障上限量(サービスの時間)が定まる。利用者は保育所との間で公的保育契約を結ぶ。保障上限量の範囲内で財政支援がある。受け皿となる保育所の充実についても、様々な施策が行われる。
 同報告の中に明確な記述はないが、「新たな保育の仕組み」と、老人介護における「介護保険制度」との類似性はよく指摘されるところである。

背景

 全国レベルにおいて、女性の社会進出や、競争を増す経済社会において有能人材の活用が進んでいる。また地域レベルにおいては核家族化の進行や、地域社会の崩壊が起こり、これらが相まって、母親の中で子育ての負担感が増大している。
 こうして、保育所のニーズは全国的に高まる一方であり、待機児童の増加につながっている。この傾向は、これからも拍車を掛けて続くであろう。  保育サービスは国から市町村に委ねられた機関委任事務だが、もはや市町村の努力だけでは「待機児童ゼロ」を達成できる状況ではなくなってきた。国が20年度第2次補正予算で総額1,000億円を組み、各都道府県に「安心こども基金」を造成したのも、国のこうした危機感の表れであるといえる。
 また一方で、国が許可する「認可」保育所(公立・私立)と、比較的緩やかな設置基準により都道府県が許可する「認証」保育所(私立)があるが、両方合わせても、利用者の増加にサービス供給側の整備が追いついていないのが現状である。
 待機児童数とは、とりもなおさず、保育サービス供給側が整備できなかった分を意味する。そのため、子育ての分野に民間活力を導入し、マーケットの自己責任原則に基づいて私企業の参入を促し、ダイナミズムを生もうという発想は、古くからあった。

意義

 第一次報告は、介護保険でいう「要介護度の認定」のように、国から事務を委任された市区町村が、子どもそれぞれの事情に合わせていわば「要『保育』度の認定」を行うのと全く同じことを、保育プロセスの最初に行うとして提唱している。
 これに続き、利用者が保育所と直接契約を結ぶことや、私企業が参入するインセンティブとなりうる「要保育度」に応じた財政支援などについて述べられている。保険料の徴収がないだけで、制度の骨子は「介護保険」に類似しているといってよい。
 これら一連の提言を、保育における規制緩和を目指したものとみなすことには、どのスタンスから見ても異論はなかろう。真に問われるのは、次節で述べるように、容易に想定される育児状況の変化が起こりうるというリスクを取ってもなお、この大改革を行うだけの意義が一体あるのか、という点にある。
 介護保険制度の施行後10年を経て、どのような状況が生まれたかを振り返ることが、今回の第一次報告が実施に移されたあとの保育の未来を占う上で有効である。
 介護業への民間参入は流れとして定着したが、一部の大手介護業者の事件に見られるように、利潤優先に走った業者によってサービスレベルが低下したり、米国で広く見られるように補助金詐欺に近い事例も発生した。一方で、それでも介護に携わるマンパワーは慢性的に不足しており、民間活力を完全に活用できているのか、疑問も残る。
 それでも、今日の介護において介護保険制度がない状況を想像するのは、もはや難しいといったぐらいに浸透しているという事実も、見逃すことはできない。

反論

 小泉政権時代に顕著に見られた新自由主義への反動もあってか、市場万能主義や、公的分野にむやみに民間活力を導入して問題解決しようとする政治的な姿勢に対しては、昨今、社会全体に、強い警戒感が共有されている。
 第一次報告の発表に前後して、ウェブサイト上にも多くの反論・懐疑論が噴出している。 共産党系の「赤旗」は1月9日付けで、党女性委員会責任者による反論を掲載している([1])。
 これによると、同報告が実施されれば、保育は旧来、国の「義務」であったものが「関与」となり、これは実質的な義務の放棄である、ということが指摘されている。
 他に、政党色のない評論の中からも、全国保育団体連合会(全保連)が懸念を示した「保護者自らが保育所を探して入所の契約をしなければいけない」という点に共感を表明する意見や、財界の意向を反映した政策、などという意見も見られる([2])。

まとめ

 児童保育の担い手は「家庭」が基本である点に議論の余地はないが、公立保育所、私立保育所(私企業)、NPO、個人(ベビーシッター)など様々なサービス形態があり、制度のデザイン次第でそれぞれのマーケットサイズや利害に絡んでくる。
 今回、その在り方を根底から揺さぶるような報告が厚生労働省の部会から出されたことは、一般も巻き込んで注意を喚起したという意味で、一定の評価がされてよい。
 しかし、厚生労働省の意向を色濃く反映した報告であることに疑いはなく、こうした部会を風除けにして重要な政策方針をさも専門家の合意によって形成されたかのように打ち出し、国民が知ったときにはすでに法制化への道筋は敷かれている、という中央官庁のやり方には、昔と、いささかの違いもないことも指摘しなければならない。
 介護保険制度も導入時はやはり手探りだったが、それから10年の月日が経った。社会には色々な知識・経験が蓄積されてもいる。国民レベルの活発な議論が望まれる所以である。

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